神様、俺様、デューラー様
真正面を向いた堂々たる自画像を描いたデューラー。当時、真正面に描かれる人物はキリストか、聖人または王様くらいでした。

こんなに正面切って描いちゃって、と当時の人は驚いたのか、デューラーは多くの文献に「ナルシスト」と評されています。ナルシストかどうかはさておき、ドイツ生まれのデューラーは好奇心旺盛で才能豊かなインテリ青年でした。そのため、しばしば妬みの対象になり、絵画を学ぶために行ったベネチアでは姑息な嫌がらせを受けるなど、腹立たしい経験をしています。

ベネチアの衣装をデューラー様の美意識であえて着崩しているのかな。
しかし、それに負けることなく圧倒的な画力を発揮し、ドイツに戻ってきました。そのころのドイツは芸術家の立場がイタリアとは違って低く、どんなに素晴らしい作品を描ける能力があったとしても食べていくのが精一杯!という芸術後進国。デューラー29歳、「そんな状況は俺様が変えてやる!」と決意表明するために、真正面の自画像を描いたのかもしれません。

細密にして情緒豊か。ドイツ様式とイタリア様式が見事に融合した作品。
そんなデューラーの目論見通り画業は成功を収め、特に版画作品の人気は爆上がり。しかし、そのために多数の贋作が出回りました。

答えは左!右は3年後に出回った贋作
当時は著作権という概念はない時代、安価な偽物が出回っても文句を言うことができません。怒りを抑えられないデューラー。描いた人物にメッセージ看板を持たせたりしました。

「ニュルンベルクのアルブレヒト・デューラーが1504年に作った」と書いた看板を持たされるアダム
贋作撲滅に奮闘したデューラーですが、あまり効果はなかったとのこと。しかし、真正面の自画像の決意は実り、宮廷画家や市議会の名誉会員になるなど名声と富を手にした人生を送りました。